アジアンビューティー

アジアンビューティー

『親愛なるカイへ ハイ、カイ。私よ、ティッカ。驚いた?ハハハ。元気?私は元気。"友達になってくれてありがとう。"これをどうしても伝たくて手紙を書いたの。私は、あなたのような男性と知り合えて本当に幸せだと思う。カイは賢くて才気のある男よね。ずっと友達でいてね。そして、ハッピーニューイヤー。バイ!2004/12/29 ティッカ』
日本語にするとこんな感じかな。バンコクから届いたまだ見ぬ彼女からの手紙。
ブルーブラックの流暢なアルファベットが並ぶ筆跡。真紅の封筒からはオリエンタルな香りが漂う。いつもはメールでの交信だが、たまにこうやってサプライズが送られてくる。
インターネットのペンパルサイトで知り合ったティッカとの文通はもう3年になる。観光名所やお祭りなど季節の行事の写真はよく交換する。アユタヤの遺跡からは栄華を極めた浪漫が溢れていた。タイ鉄道のオリエンタルエクスプレスは華麗で本当に贅沢だった。彼女からの写真で、僕は本当にたくさんのタイを旅した。
しかしお互いのポートレートは交換しない約束だ。ペンパルは顔を知らないことが継続の秘訣だ。空想にも近いたくましい想像力が筆を進める原動力になる。
彼女は仏系の大手銀行でプライベートバンキングを担当しているそうだ。僕は勝手にチャン・ツィイーのようなアジアンビューティーを想像している。長い黒髪と華奢な手足、そして潤んだ瞳が僕を見つめるのだ。
浅草周辺と落語の寄席の写真を送ったことがある。タイも仏教の国だが、「お寺の雰囲気はずいぶん違う」そうだ。落語については「顔が面白い」と書いていたっけ。東京ディズニーランドの写真も送った。東京ディズニーランドに行くのはずっと夢なのだと、ミッキーマウスやシンデレラ城にあこがれている想いを熱く書き綴ってきたこともある。いつかきっと招待しようと思っている。
「航空券とパスポートを拝見します。成田発バンコク行きNH953ですね、窓側25Aでよろしいでしょうか?お待たせしました、時間がないのでお急ぎください。」
取引先と契約を結ぶために急遽バンコクへ飛ぶことになった。それが昨日夕方に決まってから急いで荷物をまとめ、なんとか成田にたどり着いた。もちろん、出かける前にティッカにはメールを入れた。『親愛なるティッカ。驚くなよ。明日バンコクへ出張します。会いたい。ツインタワーズのロビーで待つよ。ユアフレンド、カイ。』
『カイへ。本当に本当に本当に?!もちろん行きます。街を案内するね。トムヤンクンは作ってあげられないけど、美味しいところは知ってるよ。16日だと17時には行けます。読んでくれるかな?いちおう待ってる。あなたから貰った面白い顔の写真が目印よ。ティッカ。』部屋に着いてすぐ確認したメール。飛行機内で合わせたハミルトンは、16時40分。あと20分か。『OK!今すぐ行くよ。カイ。』彼女は読むか分からない。
広いロビーだ。柱にもたれかかって彼女を待つ。正面の自動ドアが開く。逆光のまぶしさの中に現れたのは、彼女だろう。僕は真紅の封筒をかざした。

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作者コメント

2005年11月の作品。文章塾パート2での作品。

ある国のペンパルに本当に会いに行った経験がモチーフ。

秘伝文章塾