たどり着けない

たどり着けない

「『【銀座線】溜池山王18:19発~新橋18:23着、【JR東海道本線】新橋18:29発~横浜18:52着、【JR京浜東北線】横浜18:55発~桜木町18:59着』だな。ケータイに転送して、っと。そしてシャットダウン。」
「あれっ?どこ行くの?」隣の竹下が興味深そうに聞いてきた。
「今日はロバート・ギルバートのセミナーがあるんだ。今やカリスマ的存在。世界的にも記念すべき一日になるはずだね。」オメガに目をやると『18:15 “16”』をさしている。「やべ、あと4分だ。じゃあね。お先!」
大急ぎでビルを飛び出す。すでに日は暮れ紫色の空に包まれている。ひんやりした空気が心地よい。上着のポケットに手を入れ、メトロカードを探りながら走る。地下鉄の入り口に飛び込み、改札を抜け階段を駆け下りる。ちょうど電車が到着しドアが開く。「よし、間に合った。」背中にじっとり汗がにじむ。小さくガッツポーズをとった。
東海道本線には順調に乗り換えられた。入り口付近に陣取り、本を取り出し、カバンは網棚に載せる。すぐ後ろに迫る中年男性の顔がドアのガラス越しに自分の前に回りこむ。目を合わせないように、すぐに本を開いた。
『「とってもセクシーなドレスだね。こんなに上手く着こなせるのは君しかいないよ。」黒いホルターネックのワンピースドレスに身を包んだ彼女を見て、つい、言葉が出た。アップにしたヘアスタイル、・・・』
いつの間にか後ろはピンク色のモヘアのセーターを着た女性に替わっていた。ふくよかな胸の感触を二の腕に感じる。
『・・・僕は並んで歩く彼女に向かって微笑み返した。言葉になんてならない。彼女はカンパニーの保育事業部で保育を担当している。・・・』
・・・ヨ・・・コ・・・ハ・・・マ・・・
『・・・僕は、「だめよ」という彼女の手を引いて、クルーザーに乗り込んだ。・・・』
はっ待てよ!、しかし、無情にもドアは閉まる。周囲の好奇の目がなんとも恥ずかしい。中吊りを見て周囲の目をごまかす。『結婚式 涙の失敗&後悔談 実例100連発【ゼクシィ】』降りそびれた・・・。確か、開始時刻は19:30。次の戸塚到着予定が19:05。往復で約20分のロスタイムも、桜木町から会場まで走ればなんとか取り戻せるだろう。
すぐにやって来た横浜方面に戻る電車に乗ると空いている。席に座りまた本を開く。『・・・相変わらず・・・相変わ・・・ぶしい。・・・△■#・・・』
・・・シ・・・ン・・・バ・・・シ・・・はっ待てよ!、寝過ごした!?
「ヨコハマ~、ヨコハマ~」なんだ夢か。危うくまたしても乗り過ごすところだったぜ。危ない。急いで京浜東北線のホームに向かう。
桜木町駅に着く。猛烈ダッシュ。オシャレな駅前広場では思い思いの場所でミュージシャンが音楽を奏でる。国際大ホールの案内板を注意深く探しながら、ブランドショップが並ぶショッピングモールを駆け抜ける。景色が流れ去る。ショップから出てきた2人の女性が出てくる。姉妹にも見えるその親子の大きな買い物袋と自分のカバンがぶつかった。「ごめんなさい!急いでます。」
最後のエスカレータを駆け上がり急に視界が開ける。大ホール入り口がもう、すぐそこに見える。ズボンが汗でまとわりつく。息を整えながら受付に向かった。なんか雰囲気が違う。急いでチケットを取り出し確認した。
『世界のロバート・ギルバートセミナー10月15日19:30~』

商品データ

その他

作者コメント

2003年10月の作品。

カラダが思うように動かない夢って見ることあるじゃないですか。そんな、なんとももどかしい感じを出したかったんです。本を読みながら駅を乗り過ごし、戻りの電車でウトウトしてしまう。なんとか飛び降りるも会場についてみると、一日遅かった。冴えない男ですよ。しかし、結果的には、何か無意味な作品に仕上がってしまいました。掲載するかどうかを悩みました。自分自身に非常に影響を与えたある一日がモチーフであることと、失敗作も自分の足跡ということで、ご愛嬌です。


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