ナスとピーマンのプロバンス風

ナスとピーマンのプロバンス風

「今日は時間がなかったから簡単に作ったの。ごめんね。ナスとピーマンのプロバンス風。」
ナス達は真っ白な大皿の真ん中に盛り付けられている。白い湯気が立つ。たっぷりのバージンオリーブ油を吸った輪切りのナスは、白い中心部の方はとろとろ感が溢れ、皮の方はまだまだ鮮やかな紫色をしている。
「いただっきまーす。」
2人の子供たちと声を合わせて食前の儀式。
僕は真っ先にナスをつまんだ。思ったより柔らかい。油が滴り落ちそうになるところを急いで口に運ぶ。塩味が広がる。続いて油の旨み。まろやかなコクと主張のある渋みが微かに現れる。口の中で繰り広げられる味の競演に終止符を打つ。のどを過ぎる生暖かいナス達。
「まいうー!。ぶひぶひー。んごぉ!」
僕が言うと、下の子が真似をする。
「まいゆー。」
次はピーマン。グリーンピーマンの張りあるボディが僕を見つめ返す。上等じゃねえか。トリプルAクラスの存在感だ。なにより、色が美しく仕上がっている。そして、ショリショリの食感を想像させる。イエローピーマンが3分の1くらい混じっている。こいつはまるで道化師だ。何の役に立つわけでないが、こいつがいなくちゃ締まらない。
グリーンとイエローを同時につまむ。ピーマンの苦い香りが鼻をくすぐる。可愛い奴だぜ。一口でやっつける。
ところどころに顔を出している真っ赤なベーコン。こいつは、けっこうカリっと仕上がっている。僕はベーコンに目がない。マックではベーコンレタスバーガー、サンドイッチもBLT。
つまんだのは一番大きな一片。白い脂身の先端がちょっと焦げている。これが旨いんだな。口に入れると何回も噛む。噛めば噛むほど味が出る。プロバンスを想いながら、しばしベーコンと二人きりのラブセッションを楽しむ。
口の中にベーコンの脂と塩気が程よく広がったところをめがけて、ご飯を放り込む。茶碗を左手に持ち、もう一度、ご飯を掘る。箸に山盛り積んで、また口に放り込む。まるで蒸気機関車の動力室だ。
「今日も、ホント、うまい!最高!ナスがいいよね。やっぱり今が旬なの?」
「そうだね、旬だよ。実家のお母さんは、ナスはどういう料理をしていた?」
「ただ油で炒めるだけだったかなー。」

「ただいまー!」
「お帰り。ご飯できてるよ。すぐ食べれるから座りなさい。」
「えー、またナス!?」
「そうだよ。まだ畑にあるからね。食べてね。」
「もうやだよ。ずっとナスの油炒めだよ。母さんはずっと同じものばっかり。初夏はアスパラばかりだし。違う料理ならいいけど、茹でてマヨネーズをつけるだけなんだもん。もうすぐジャガイモばかりの日が来るんでしょ。ジャガイモの味噌汁、大嫌い。今日だって、ナスなんか食べないからね。」
「仕方ないでしょ。母さん、それ以外の料理なんて知らないんだから。じゃあ、食べるんでない!うちの子じゃないから。食べるものに文句いうとばちが当たるよ!!」

花かつおでダシをとった薫り高い味噌汁をすすりながら、遠い昔を想った。妻は料理上手に限る。子供が幸せだ。

商品データ

その他

作者コメント

2003年10月期の作品。お題は「なす」

食材である紫色のナスを中心に、白い湯気と緑と黄色のピーマン、赤いベーコンを織り交ぜ、とてもカラフルな作品に仕上がりました。


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