タカラモノ

タカラモノ

何度も繰り返し聞かされた話も、今日は耳に痛かった。おばあちゃんの肩が小刻みに震えている。飛行機で2時間、バスで3時間、2年ぶりに帰ってきた懐かしさに浸る間もなく、おばあちゃんの悲しい顔を見て切ない気分で胸がいっぱいになった。
離婚した。妻が子供を連れて出て行ったよ。おばあちゃんに報告すると、ボソリ、ボソリと始まった。
「あんたのお父さんがまだ小学校にあがる前くらいだったねぇ。あの日、おじいちゃんが世話になってた田中さんが家に来てね、子供ひとり譲ってほしいって言ったの。」
はいはい。その先は、「田中さんは子供がいなかったし、うちは男が4人だろ。口も減るから助かるだろうしって。」って言ったんだよね。いつもは茶化して聞く話も今日はいちおう神妙な顔を作って聞くことにする。
「そうしたらね、おじいちゃんはこう言ったんだよ。『田中さん、俺は確かに財産なんて何も持ってねえ。金はないし、高血圧で体も弱いんだ。でもな、子供は宝なんだよ。申し訳ないけど、他をあたってくれないか。』って。」
おばあちゃんの話も今日はロングバージョンだ。まだまだ開放してくれそうにない。仕方がないのでテーブルのスイカに手をつける。
うちの親父は4人兄弟の3番目。2番目の兄にあたる叔父がいつか言ってた。
「ばあさんがいつもする話があるだろ。あの日のことは俺も良く覚えてるよ。田中さんの家はけっこうな豪邸で、金があったんだろうね。あそこの子供になるのもいいかなって思ってたけどな。でも、『人が親切で言ってやってるのに、分らず屋め。』みたいな捨て台詞を残して帰ったから、あまり行儀のいい人じゃなかったかもしれない。」
「あたしもね、小さいときから、斉藤さんの家に預けられて育ったよ。そりゃあひどい扱いを受けてね。でも、帰るところもないし、やっぱり我慢してでもそこで生きるしかなかった。」
スイカもついに4切れ目に突入。タネと皮の山を捨てようとソファを立ってテレビ横のゴミ箱に向かいながら、反撃の口を開いた。
「いや、おばあちゃん、そんな話じゃなくってさ。今の時代、離婚なんて普通なんだよ。夫婦がさ、お互いの価値観が変わって一緒に暮らせなくなったから別れた、それだけ。子供は自分の血が通った子供だし、これからも大切だということに変わりはないよ。まあ、海外出張にでも出たと思えば、結婚していても離れ離れに暮らすことがあるわけだし、たいした問題じゃないさ。」
「ばかやろう、そんなことを言ってるんじゃないんだよ。親と離れて暮らす子供が幸せなもんかっ!おじいちゃんは子供を宝だと言ったよ。その気持ちがあんたにあるのかって言ってるんだ!!」
「まあまあ。」話を聞いていた叔母が助け舟を出す。「おばあちゃんもあんまり熱くならないで。わざわざ時間作っておばあちゃんに会いに来てくれるんだから、分かってるべさ、そんなこと。ほら、とうきび茹でたから食べなさいや。今年のは実がつまってて甘いんだわ。おいしいから、ほらっ。」

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