夏の日の午後、授業をサボって。

夏の日の午後、授業をサボって。

ガチャガチャ。玄関ドアのカギが開く音が聞こえ、僕はとっさに真砂子の口を押さえた。「シーッ。」
「ただいまー。あんたたち、いるんでしょ。安かったからメロン買ってきたのよ。食べにきなさい!」階下から帰ってきたばかりのおふくろが声をかけた。「わかった、今行くよ。」大きな声で応えながら、きしむパイプベッドから飛び降りた。床に脱ぎ捨ててあったアディダスのTシャツをいそいでかぶる。
「おかしいなあ。今日は遅くなるって言ってたのに。」
「私は、なんかこうなる予感がしてたよ。やっぱり、時間が足りないよね。」
彼女は、僕をからかうように微笑んだ。
「ちょっと向こう向いててよ。」「はいはい。」とりあえず、床に散らかっていた制服のワイシャツや雑誌、学校のカバンまでベッドに放り投げるとその上に布団をかけ適当に見栄えのする部屋に片付けた。顔をあげると壁の鏡に彼女の白い背中が映る。手早くブラジャーをつけると、ブラウスを羽織った。
彼女が振り返る。
「見てたでしょ。恥ずかしいよ。あー待って、髪!ぐしゃくしゃ。ブラシ借りるね。」
「冷たい麦茶も入れたわよ。持ってってあげるわ。」と、おふくろが階段をゆっくりと登ってきはじめた。
「やばいっ、座れよ。」とりあえず、コンポの電源を入れCDをかけると、自分も靴下を履きながら、ベッドに腰掛けた彼女の隣に座った。
トントン。「入るわね。」「あー、いいよ。」「おかあさん、こんにちは。お邪魔してます。」「はいはい、こんにちは。この暑いのにあんたたち、窓締め切ってカーテン閉めて何やってるのよ。」
「あー、真砂子が持ってきてくれたCD聴いてたんだよ。さっきまで日差しが強くてさ。カーテン閉めてたんだ。ちょっと暗いほうがムードあるじゃん?」
「あっ、そう。」おふくろはテーブルにメロンと麦茶の載ったトレイを置くと、興味なさそうに答えた。
「あんた、その暑苦しい靴下脱いだら?真砂子ちゃんは素足で涼しそうよ。」
「そっ、そうだな。それより、早く出てってくれよ。」「あー、はいはい。ごゆっくりどうぞ。」おふくろが階段を降りきるまで、二人で息を飲んだ。
「びっくりしたあ。」先に口を開いたのは真砂子だった。「さっき、どうしてもストッキングが見あたらなかったのよ。それでスカートだけ履いて、素足でいたんだけど、おかあさんに怪しまれたのかと思ったぁ。」「俺もあせったよー。だって靴下が左右逆。ほら。」くるぶしを見せると内側にワンポイントマークがきている。二人でメロンをつつきながら、笑った。
そういえば・・・、「ちょっと立ってくれる?」俺は思い出し、布団をまくりあげると、自分のカバンの下からぺしゃんこになった彼女のストッキングが出てきた。
「ごめん、ここにあった。」二人で顔を見合わせ、笑った。カーテンを開けた。
やわらかな金色の夕日が彼女の笑顔をやさしく包んだ。

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