焼肉伝説

焼肉伝説

「うちの姉貴から聞いたんだけど、その昔、昼休みに教室で焼肉をやって退学処分になった5人組がいたそうだ。」
そう言って幸雄は売店で買ってきたばかりの焼きそばロールをかじった。確か、ここ3日は連続で食ってる。
幸雄の弁当箱には決まって500円玉が入っていた。500円あれば近所の武蔵丸ラーメンで学生大盛が食える。
しかし必ず250円以上を残して貯金していた。こいつ絶対金持ちになる。

「なんだよそれ、マジで?詳しく教えろよ。」
俺は弁当箱から俵おにぎりを取りだして頬張った。刻みしょうがとごま塩の風味がさわやかだ。

「ああ。彼らの失敗の原因は三つあったそうだ。ひとつは煙だ。」
ずいぶん誇らしげに話しやがる。そんな態度がむかつくが、幸雄は親友だ。
4つ年上の姉が同じ学校に通っていたから、校内のネタにはやけに詳しい。体育器具室に女子更衣室を覗ける穴があるっていうことも本当だった。女子の間では公然の秘密らしいが、男子で知っているものは少ない。
俺はニンジンをつまんだ。
幸雄は紙パックのコーヒー牛乳にストローを突き刺した。

「騒ぎが外に聞かれたら困るってことで窓は閉切っていた。しかし、焼肉には当然、煙が付き物だろう。その煙があれに反応しちまったんだな。」
幸雄が天井に目をやった。俺もつられた。火災探知機が張り付いている。俺の口のなかにごぼうのコクが広がる。

「ふたつめは臭いだ。焼肉は煙とともに臭いも強烈だ。女子からは相当なブーイングだったらしい。」
もっともな話だ。窓を閉めて焼肉をすれば、そりゃ迷惑だろう。
しいたけの深い薫りがのどを過ぎた。幸雄のストローが下品な音を立てて鳴る。

「みっつめは、電源だ。これが決定打となった。彼らはホットプレートを持ち込んだらしい。あれは大量に電気を消費するからな。校舎全体の電源供給がストップ!。『笑っていいとも』を見ていた校長が激怒したって話だ。」
「校長の話は、なんかウソくせーな。」
俺はレンコンの穴越しに幸雄を見つめた。大口を開けて最後の焼きそばロールを放り込む。

「まあ、そう言うな。」
幸雄は紙パックを握りつぶすと、教室の後ろに向かって投げた。放物線を描いてゴミ箱に向かって飛んでいく。

「そして、彼らが最後に言い残した言葉があるそうだ。『今度やるときはカセットコンロで湯豆腐だな。』って。彼らに今度はなかったけどな。」
そう言うと幸雄は走り出した。外した紙パックを拾うために。
俺はしみじみ感じた。ずいぶんと筋が通っている・・・、このフキは。

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作者コメント

2003年6月の作品。テーマは「食べ物」

「俺」が食べているお弁当は、「おにぎりの歌」になっているのに気がついたでしょうか。「これくらいの、お弁当箱に、おにぎり^2、チョイとつめて、刻みしょうがに、ごま塩振って、にんじんさん、ごぼうさん、穴の開いたれんこんさん、すじーの通ったフキ!」という構成になっているんですよ。
体育器具室に女子更衣室を覗ける穴っているのもいいですよね。女子は逆に意識して、見せつけるように穴の前で着替えたりして、、いやいや妄想が暴走です。

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